この書が書かれてから時は経ち、今は21世紀ですが、当時のオーウェルは、スペイン内乱やその後のナチス台頭と終戦、そしてソビエト連邦による社会主義共和国圏の樹立などを鑑みて、社会主義体制が実際に運用された際に、その内側に生じる全体主義的で非人間的な側面に強い嫌悪と危機感を持ったのだと思います。本書はそういった危惧を、物語に託して語った名著です。 物語は、4月のある晴れた寒い日の13時頃始まります。何でもない普通の始まり方で、特に何の感想も抱かず読み進めてゆくと、そのうちに「これはちょっとおかしい」と言うことに気が付くでしょう。全編を貫くどんよりした閉塞感は、全体主義国家に漂う雰囲気そのままであろうもので、なかなかの空気感を持っています。 特に印象的なのは、作中に何度も登場する党の3つのスローガンです。 WAR IS PEACE(戦争は平和である) FREEDOM IS SLAVERY(自由は屈従である) IGNORANCE IS STRENGTH(無知は力である) 一見、何を言いたいのかサッパリ分かりませんが、物語の後半に明らかにされるこのスローガンの真の意味を知ったとき、国家の狡さと言うものは、時や国をも超えて共通するものであると思い知らされます。例えば現在の日本においても、部分的には上記スローガンのどれかが当てはまる状況(現場)は存在しているわけです。 その意味からも、単に社会主義を批判したものではなくて、体制(国家や企業)と個人の最悪の関係性を描いた反ユートピア作品として、現在の高度情報化管理社会にも通じる問題意識を持っており、決して過去の小説ではありません。