１９８０age　〜１９８５年〜

1985年の奇跡

人気ランキング ： 99,606位 定価 ： ￥ 1,785 販売元 ： 双葉社 発売日 ： 2003-07

王道

徹底的な管理教育が行き届いた小金井公園高校。部活動の時間も制限されていて、野球部は創設以来一度も買ったことの無い弱小部。選手もダラダラと遊んでいるありさま。キャプテンである岡村も、そんな部活でダラダラと過ごしていた。そんなある日、岡村と中学の時の同級生で、野球推薦で強豪高に行ったはずの沢渡が転校してきて…。
う〜ん…本当に五十嵐貴久という作家は芸達者な作家だと思う。サスペンスホラーの『リカ』、時代小説の『安政五年の大脱走』と来て、今度は青春モノですか。
今作も『安政五年の大脱走』同様に、ストーリーそのものに意外性はそんなに無い。細かいところではともかく、大筋の流れに関しては、大抵の人が予想できるんじゃないだろうか？　１９８５年という時代、徹底的な管理教育という中で落ちこぼれの弱小野球部員が、夢を見て…というのは、ある意味で青春モノの王道だと思う。そして、その王道の物語を十分に堪能できるだけの文章力もある。お約束の物語ではあるんだけれども、上手く料理されていると思う。面白かった。
…が、どうにも、あざとく感じてしまう部分があるのと、最後のエピソードが思いっきり蛇足という感じ。その部分、ちょっと減点。

伏線の入れ方に感銘！

メインストーリーは「大脱獄」の時と同様にバレバレなんだけど、そのメインストーリーを動かすための小さな事件の積み重ね方がとても巧い！　この作品でも、校則のこと、引ったくり事件のこと、応援団のことなど、小さなエピソードが意味のある伏線になっていて、読み進めるにしたがって作品に引き込まれてしまった。どんどん発表するたびにジャンルが違ってるけど、発表するたびに作品の完成度が上がっていて、常に次回作を期待してしまう作家だと思う。おにゃんこ同世代の人は、ぜひ読んでみて欲しいです。

軽いﾉﾘの青春学園もの

小金井公園高校野球部は､中川校長の強力な教育方針もあって､まだ1勝もしていない弱小野球部である､練習を適当に切り上げだらだらと遊ぶことが部活の中心であった。ある日転校生が入ってきた､彼は名門海南高校の野球部で活躍していたが肘を壊し、小金井高校に入ってきた｡彼の名前は沢渡で野球部のｷｬﾌﾟﾃﾝ岡村と中学時代の同級生であった｡肘の調子が戻った沢渡は､野球部に入団した｡小金井公園高校野球部の奇跡が始まった……
軽いﾉﾘの青春学園もの､ｽｰﾊﾟｰﾋｰﾛｰも登場したりして､割と安易な展開

青春ドラマ：起承転結の「転」の切り口が面白い！

ボクは1966年生まれなのでこの主人公たちとほぼ同時代。「夕ニャン」はよく見てたなあ。福永が好きだった。
中途半端な高校生が主人公なのだが、最初のうちはその中途半端さを伝える「夕ニャン」などの時代背景、舞台設定がかなりしつこく登場して、軽薄な感じもあり、ちょっと食傷ぎみだったけど、物語の展開の部分の切り口がとても以外であり、そこからの展開が面白かった。
最後は青春ドラマへと向かっていくのだが、そこまでの展開が楽しかった。
五十嵐さんの作品はこれが二冊目。「交渉人」に続いて。プロフィールを読むまで気付かなかったほど、その雰囲気が違った。同時代のものとすると少し時代背景を伝える表現のかざりがうるさい感じがした。さんまちゃんの「気持ちはロンリー、心は…」にてるかな。最初のうちは面白がれるんだけど。
次作に期待です。

過ぎ去りし青春を懐かしむには役不足か

嫌味な校長の描写なんかは宗田理あたりからモチーフを拝借している感じだが、
ちょっとやりすぎの感が現実味を奪っているし、ストーリー全体も「過ぎ
去りし我が青春」を回顧できるほどの書き込みも無いように思う。それで
もこの時代に青春を送った人間なら「おお！なつかしい！」と思えるとこ
ろも無いではないが。
本書のラストは嫌いではないのだが、エピローグは完全に余計だ。
もういいかげんアメリカングラフィティの呪縛から離れたらどうか。
この人の作品はきっとテレビドラマの原作なんかにちょうどいいのだろうし、
それを狙っているフシも感じられる。まあ当時の映像をふんだんに使えば
それだけで十分話題にはなりそうだ。
しかし、この作者は多芸だ。
デビュー作はホラーし、ミステリあり、時代小説あり、そして今度は
青春小説だ。
１つのテーマを掘り下げて追うというスタイルではなく、様々な題材を
それなりにそつなく料理するのに長けた人なのだろう。