１９８０age　〜１９８２年〜

The Story Of The Night

人気ランキング ： 1,020,006位 定価 ： ￥ 1,803 販売元 ： Scribner 発売日 ： 2005-05-03

夜の物語

フォークランド紛争（彼らの名前ならマルビナス戦争）時代のアルゼンチンを中心に英国人の母とアルゼンチン人の父を持つ主人公が物語を語るのだが、前半部に起こることの多くは、読み始める前に何となく想像したことからさほど遠いわけではない。異邦人としての母親、親友（と呼ぶべきなのか）への片思い、スペイン旅行で出会ったチリ人たちの物語、アメリカ人との外交的な交友関係。自分が何者なのか、どこに自分の居場所があるのか、感情の揺れを押さえた語り口はもちろん、彼が性的嗜好や生まれや性格的なものによる何重ものアウトサイダー的存在として、どこにも溶け込めないからなのだ。
ところが、時代背景をすっかり忘れて読んでいたせいか、まるで頬を張られるかのように後半の展開は別物だった。今ではすっかり忘れ去ってしまっていたあの時代の記憶が鮮明に蘇ってきたのだ。それは、孤独感と死の予感（私自身のものではなかったが）をかつてないほど身近に突きつけられた記憶である。その頃に読んだ同じテーマの何冊もの本の中にも、このような描き方をしたものは１冊もなかったように思う（それとも忘れてしまっただけで、他にもあったのだろうか？）。これ以上は明言したくないので、ぜひ自分の目で発見していただきたい。主人公が最後に感じる、本来あり得ない形の幸福感の深い悲しみに言葉を失い、胸打たれることだろう（もちろん、絶対的な孤独よりは隣に誰かのいる死の方が数段マシなのだという物語なら何度も読んだのかもしれない、とはいえ・・・）。